
日本で働いていた外国人の方が帰国する際に、「支払った年金はどうなるの?」と疑問に感じる方もおられるのではないでしょうか。一定の条件を満たせば、「脱退一時金」として一部の年金保険料を受け取れますが、申請できる期限や必要書類には注意が必要です。
本記事では、国民年金・厚生年金の脱退一時金の概要や対象者、金額、申請から入金までの流れをご紹介します。また、よくある質問も解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。


国民年金・厚生年金の脱退一時金とは?
脱退一時金制度は、日本で公的年金に加入していた外国人が老齢年金の受給資格を得る前に帰国する際、納めた保険料の一部を受け取れる仕組みです。国民年金や厚生年金は、日本に住む外国人も加入が義務付けられており、保険料を一定期間支払っています。
しかし、帰国により日本の年金制度から離脱すると、将来的な年金受給が難しくなります。こうしたケースに対応して、納付済みの保険料を無駄にしないよう返金されるのが脱退一時金です。

脱退一時金の対象者
脱退一時金を受け取るには、以下の条件をすべて満たさなければなりません。
- 日本国籍を有しない
- 公的年金制度(国民年金または厚生年金)の被保険者でない
- 国民年金または厚生年金(共済組合などを含む)の加入期間が6か月以上ある
- 老齢年金の受給資格期間(国民年金の保険料納付済み期間、厚生年金加入期間、合算対象期間の合計が10年以上)を満たしていない
- 障害基礎年金、障害厚生年金などの年金が支給される権利を有したことがない
- 住所が日本国内にない
- 公的年金制度の直近の被保険者資格喪失日から2年以上が経過していない(被保険者資格喪失日に住所が日本国内にあった場合、同日後、住所を日本国内に有しなくなった最初の日から2年以上が経過していない)
これらの要件を満たした場合にのみ、支給対象となります。しかし、保険料の一部を免除を受けながら納付した期間がある場合、免除の種類によって期間が合算されます。
なお、外国人労働者の社会保険へ加入の必要性については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:外国人労働者は社会保険への加入が必要?日本における健康保険や労働保険の概要を徹底解説!

脱退一時金の金額
次は、脱退一時金の金額について解説します。
- 国民年金に加入していた場合
- 厚生年金に加入していた場合
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
国民年金に加入していた場合
国民年金に加入している外国人が脱退一時金を申請する際、支給額は以下の計算式にもとづいて決定されます。
- 支給額=最後に保険料を納めた年度の保険料額×2分の1×支給額計算に用いる数
「支給額計算に用いる数」は、6か月ごとに区分されており、納付期間が長いほど大きくなります。
保険料納付済み期間などの月数 | 支給額計算に用いる数 |
6か月以上12か月未満 | 6 |
12か月以上18か月未満 | 12 |
18か月以上24か月未満 | 18 |
24か月以上30か月未満 | 24 |
30か月以上36か月未満 | 30 |
36か月以上42か月未満 | 36 |
42か月以上48か月未満 | 42 |
48か月以上54か月未満 | 48 |
54か月以上60か月未満 | 54 |
60か月以上 | 60 |
厚生年金に加入していた場合
厚生年金の脱退一時金は、被保険者としての加入期間や収入に応じて、以下の計算式で算出されます。
- 支給額=平均標準報酬額(被保険者の期間中)×支給率
平均額は、以下の2つの合計額をもとに被保険者期間の月数で割って求めます。
- 2003年4月より前の被保険者期間の標準報酬月額×1.3
- 2003年4月以後の被保険者期間の標準報酬月額+標準賞与額
支給率は、その年の保険料率の半分と加入期間に応じた係数で構成され、最長で5年分(支給率5.5)まで受け取りが可能です。納付期間が長いほど支給率も高くなります。

脱退一時金の申請から入金までの流れは3ステップ
次は、脱退一時金の申請から入金までの流れについて解説します。
- ステップ1.必要な書類を準備する
- ステップ2.脱退一時金請求書を提出する
- ステップ3.脱退一時金を受け取る
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
ステップ1.必要な書類を準備する
まず、日本の住民票を削除するために転出届を提出して、「住民票の除票の写し」を取得しなければなりません。これにより、日本に住所がない旨を証明できます。
さらに、「脱退一時金請求書」を日本年金機構のサイトからダウンロードして、必要書類とともに提出します。パスポートの写しや出国日を確認できるページ、受取口座の証明書類なども併せて準備しましょう。
ステップ2.脱退一時金請求書を提出する
脱退一時金を受け取るには、必要書類をそろえて所定の機関に提出しましょう。
- 請求者
外国人労働者本人または代理人
- 提出方法
郵送または電子申請が基本。しかし、就労以外の目的で来日した場合は、年金事務所や日本年金機構に提出しなければならない
- 提出先
・国民年金の脱退一時金が支給されない場合(保険料納付済期間等が6か月未満)
最後に加入していた被用者年金の実施機関
・国民年金の脱退一時金が納付される場合(保険料納付済期間等が6か月以上)
日本年金機構
- 請求期限
日本に住所がなくなった日から2年以内
ステップ3.脱退一時金を受け取る
脱退一時金の申請後、提出書類に不備がなければ、約4か月で支給が行われます。この際、「脱退一時金支給決定通知書」も併せて郵送されるケースが多いです。
振込先として日本国外の口座を指定している場合は、現地の通貨に換算された金額が支払われます。申請時の書類に不備があると、審査や支給が遅れる可能性があるため、提出前に内容をしっかり確認しましょう。

脱退一時金を受給する際の注意点は3つ
次は、脱退一時金を受給する際の注意点について解説します。
- 出国前に請求する場合は転出日以降に請求書を提出する
- 脱退一時金を受給した外国人は所得税が還付される場合がある
- 脱退一時金を受け取ると日本で年金に加入していた期間がなくなる
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.出国前に請求する場合は転出日以降に請求書を提出する
脱退一時金を出国前に申請する場合は、住民票の転出日またはその予定日を過ぎてから請求書の提出をしなければなりません。日本年金機構が請求書を受理した時点で日本に住所が残っていると、受給資格が認められなくなるためです。
また、郵送で申請する際は、転出日以降に到着するよう日程を調整しましょう。書類の送付タイミングを誤ると、手続きに支障が出る可能性があります。
2.脱退一時金を受給した外国人は所得税が還付される場合がある
厚生年金の脱退一時金を受け取る際には、支給額の20.42%が源泉徴収されます。しかし、出国前後どちらでも一定の手続きを行うと、その税金が還付される可能性があります。
具体的には、「退職所得の選択課税による還付のための申告書」と「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を税務署に提出し、日本に住む納税管理人の選任が必要です。国民年金の脱退一時金にはこの源泉徴収は適用されません。
3.脱退一時金を受け取ると日本で年金に加入していた期間がなくなる
脱退一時金を請求すると、それ以前に日本で加入していた年金の期間はすべて無効となり、将来の年金受給資格に影響します。
たとえば、日本で長期滞在を予定していたり、特定技能2号の在留資格を目指していたりする場合は、脱退一時金を受け取ると、10年の受給資格期間を満たせなくなる可能性もあります。短期的な返金だけでなく、将来の年金受給の可能性も考慮して、請求の可否は慎重に判断しなければなりません。
なお、在留資格「特定技能」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【2024年最新版】在留資格「特定技能」とは?制度の概要や採用方法、注意点をわかりやすく解説!

外国人採用の相談に「グローバルヒューマニー・テック」がおすすめな理由
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厚生年金 脱退一時金でよくある3つの質問
最後は、厚生年金 脱退一時金でよくある質問について紹介します。
- 質問1.外国人労働者へ脱退一時金について説明すべき理由は?
- 質問2.脱退一時金の申請は誰がするの?
- 質問3.外国人労働者が一時帰国する際のみなし再入国許可とは?
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
質問1.外国人労働者へ脱退一時金について説明すべき理由は?
外国人労働者が社会保険の加入を拒否する背景には、将来的に母国へ帰国した際に保険料が無駄になるという不安があります。実際、保険料の掛け捨てを心配する声があるため、企業側が「脱退一時金」について事前に説明するのがおすすめです。
支払った年金保険料の一部が戻る制度であると伝え、あわせて支給額の参考例を示せば、加入への理解が得やすくなります。このように、丁寧な情報提供が信頼にもつながります。
なお、外国人労働者の平均賃金については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:外国人労働者の平均賃金とは?在留資格ごとに賃金の差が生じている理由や基本的なルールを徹底解説!
質問2.脱退一時金の申請は誰がするの?
脱退一時金の申請は、外国人本人または正式に委任された代理人によって行う必要があり、企業が代わりに手続きはできません。
特定技能外国人の場合、ほかの在留手続きを企業側が担うケースが多いため、脱退一時金の申請も企業が代行するものだと誤解されているケースが多いです。このため、申請は本人の責任で行う手続きである旨を説明しておきましょう。
質問3.外国人労働者が一時帰国する際のみなし再入国許可とは?
みなし再入国許可は、日本に在留する外国人が短期間の帰国や旅行をする際に利用できる制度です。出国前に空港の出入国審査で意思表示をすれば、再入国許可の申請を別途行う必要がありません。
再入国の期限は原則1年以内であり、この期間内に戻れば在留資格は維持されます。特定技能で働く外国人にとって、休暇や急な帰国にも柔軟に対応できる点がメリットです。しかし、再入国予定日を過ぎた場合は資格が失効するため、スケジュールの管理が不可欠です。

まとめ
本記事では、国民年金・厚生年金の脱退一時金の概要や対象者、金額、申請から入金までの流れをご紹介しました。
脱退一時金制度は、日本で公的年金に加入していた外国人が老齢年金の受給資格を得る前に帰国する際、納めた保険料の一部を受け取れる仕組みです。対象となるのは、短期在留で年金加入期間が10年未満の外国人で、ほかにも複数の条件を満たさなければなりません。
支給金額は、国民年金と厚生年金で異なり、加入期間や収入によって決まります。申請するには、日本に住所がなくなった日から2年以内に必要な書類を準備して、所定の機関に提出へ請求しましょう。
また、厚生年金の脱退一時金を受け取る際には、手続きをすれば還付される可能性があります。さらに、脱退一時金を受け取ると日本で年金加入していた期間が無効となり、将来の年金受給資格に影響するため、注意が必要です。
なお、株式会社グローバルヒューマニー・テックでは、グローバル人材に対する総合的な生活支援を実施しており、外国人の受け入れにおける豊富な経験と知識を有しています。ご相談・お見積りはもちろん無料です。まずはお気軽にお問合せください。⇒株式会社グローバルヒューマニー・テックに相談する

