技能実習制度は、日本国内での労働力確保を主目的としたものではなく、開発途上国への技術移転と国際協力を目指した取り組みです。しかし、賃金未払い、不当な労働環境、人権侵害などのさまざまな問題が指摘されており、早急に対策をしなければなりません。
本記事では、技能実習生に関する主な問題点やその原因、対策をご紹介します。また、よくある質問も解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
技能実習生とは?
まず、技能実習生について解説します。
- 技能実習制度の概要
- 技能実習制度の現状
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
技能実習制度の概要
技能実習制度は、日本国内での労働力確保を主目的としたものではなく、開発途上国への技術移転と国際協力を目指した取り組みです。この制度では、外国人技能実習生が日本の高度な技術やノウハウを学び、それを自国で活用して、地域の産業発展に寄与するのが目的です。
ベトナムや中国、フィリピンなどの国々から多くの実習生が来日しており、それぞれ国の経済成長や産業需要に応じた技能習得を目指しています。このように、技能実習制度は国際的な人材育成の一環として大切な役割を担っています。
技能実習制度の現状
技能実習制度が労働力を補う手段として利用される場面が多く、制度本来の目的が見失われつつあるのが現状です。製造業では、技能実習生が不可欠な存在となっていますが、労働環境や待遇に問題が指摘されています。
たとえば、不十分な賃金や長時間労働、人権侵害などが一部で見られ、失踪や制度への不信感を招く要因となっています。また、多くの実習生が借金を背負い来日するなかで、給与の実態とのギャップに苦しむ事例も少なくありません。
このような状況を改善するためには、技能実習制度の透明性を高め、実習生の権利を守る仕組みの強化が求められています。
技能実習生に関する主な問題点は5つ
次に、技能実習生に関する主な問題点について解説します。
- 給料や残業代の未払い
- 労働災害
- 長時間労働
- 失踪
- 犯罪への関与
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.給料や残業代の未払い
技能実習制度のもとで働く外国人実習生に対する賃金や労働条件に関する問題が依然として存在しています。一部の事業者では、最低賃金以下の支払いがされていたり、残業代が正当に支払われなかったりする事例が報告されています。
このような違法な契約は、実習生の生活を圧迫するだけでなく、制度そのものの信頼性を損なう原因になりかねません。さらに、長時間労働を強いられながら適切な賃金が支払われない事例も多く、実習生の健康や安全に影響を与えています。
このような不当な状況を解消するためには、厳格な監査と適切な是正措置の実施が不可欠です。
なお、外国人労働者の平均賃金については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:外国人労働者の平均賃金とは?在留資格ごとに賃金の差が生じている理由や基本的なルールを徹底解説!
2.労働災害
言語の壁や文化の違いから安全指導が十分に理解されず、慣れない作業環境でリスクが高まる事例が目立ちます。たとえば、重機の操作中に適切な指示が伝わらず大けがを負ったり、危険な機械の扱いに不慣れで事故が起こったりする事例があります。
このような災害の背景は、技能実習生が弱い立場に置かれている現状や、不適切な安全管理が原因です。また、一部の企業では労災が発生してもその事実を隠蔽するケースも報告されています。
実習生の安全を確保するには、母国語での安全教育や、文化的背景を考慮した労働環境の整備が欠かせません。
3.長時間労働
受け入れ企業の一部では、実習生に過度な労働時間を課して、労働力不足を補おうとする傾向が見られます。一方で、技能実習生自身も限られた滞在期間でより多くの収入を得るため、労働時間が長くなりがちです。
しかし、このような状況は労働基準法が定める労働時間の枠を超え、健康や安全に重大な影響をおよぼしかねません。
また、勤務時間の記録が改ざんされ、残業が正確に報告されないケースも報告されており、適切な労働環境の確保が不可欠です。法令の順守とともに、実習生の健康と福祉を重視した管理が求められます。
4.失踪
実習生は日本で技能を習得して、自国の発展に寄与する目的で来日しますが、現実には厳しい労働条件や賃金トラブル、転職の自由がないなどの問題が失踪の要因となっています。渡航時、多額の借金を負った実習生が、期待していた収入を得られずに経済的に追い詰められるケースが目立ちます。
また、失踪後に不法就労や犯罪行為に巻き込まれるリスクも高く、社会的な問題に発展する場合も多いのが現状です。このような状況を防ぐためには、適切な労働環境の整備や相談窓口の充実、転職の柔軟性を含む制度改正が欠かせません。
5.犯罪への関与
技能実習生の中には、経済的な困窮や情報不足を背景に犯罪行為に巻き込まれる事例が増えています。SNSを通じた不正行為の勧誘が目立ち、犯罪グループが技能実習生をターゲットにするケースが多いです。
たとえば、違法なバイトの誘いを受け、詐欺や盗難といった犯罪に加担する場合があります。このような行為には、日本の制度や法律への理解不足が影響しており、技能実習生が不正行為のリスクを認識できないまま関与してしまうのが問題です。
また、経済的な負担や生活の困難さが犯罪の温床となる可能性も指摘されています。これを防ぐためには、技能実習生への法的支援や教育を強化して、適切な情報提供とサポートが必要です。
技能実習生問題が発生する原因は3つ
次に、技能実習生問題が発生する原因について解説します。
- 従業員との意思疎通ができていない
- 来日前の情報収集ができていない
- 賃金のギャップが大きい
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.従業員との意思疎通ができていない
外国人技能実習生が日本で働く際、言語の壁は大きな障害となります。製造業の現場では、指示や質問が正確に伝わらないと、業務が非効率になるだけでなく、安全性にも影響を与える可能性があります。
また、文化的な違いも意思疎通を難しくする要因のひとつです。たとえば、指示があいまいに伝わったために、期待される成果に対する認識がずれたり、実習生が問題を抱えても声を上げられなかったりする場合があります。
このような状況では、実習生がストレスを抱え、不満を募らせる原因となりかねません。言語支援や文化理解を深める取り組みを通じて、双方の意思疎通を円滑にして、安心して働ける環境の整備が必要です。
2.来日前の情報収集ができていない
送り出し機関が提供する内容には誇張や不正確な情報が含まれる場合があり、日本での生活や労働環境について実態と異なる期待を抱かせる場合があります。その結果、実習生は現実とのギャップに直面して、不満やストレスを感じる場合が少なくありません。
また、SNSなどで流れる不正確な情報を鵜呑みにして、実習生が不適切な行動を取るリスクもあります。このような状況を防ぐためには、送り出し機関や受け入れ企業が正確で透明性の高い情報を提供して、実習生自身も情報の真偽を見極める意識を持つ必要があります。
3.賃金のギャップが大きい
多くの実習生は、高収入を期待して来日します。しかし、手取り額が期待と異なり、渡航費用や生活費を差し引いた後に残る金額が想像以上に少なく、ギャップを感じる場合が多いです。
また、労働環境や住居条件が事前に聞いていた内容と異なる場合もあり、これが不満や不信感を生む原因となっています。このようなギャップを減らすためには、事前に正確な情報を伝える必要があります。さらに、技能実習生が抱える不安や不満に対する継続的なフォローアップも欠かせません。
技能実習生問題に向けた対策は3つ
次に、技能実習生問題に向けた対策について解説します。
- コミュニケーションの場を設ける
- 社内全体の理解と協力を得る
- 労働環境を整備する
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.コミュニケーションの場を設ける
製造業では、専門的な技術や安全面の知識を必要とする業務が多く、不慣れな実習生にとって不安要素となる場合が少なくありません。これに対処するためには、実習生が安心して働けるように、業務内容だけでなく生活全般に関するサポート体制の整備が大切です。
たとえば、定期的な個別面談や、母国語での相談窓口を設けて、実習生が抱える疑問や不安を早期に解決して、職場でのミスやトラブルの発生を未然に防止できます。実習生が日本の環境に適応できるよう支援するには、快適な職場環境の構築が期待されます。
2.社内全体の理解と協力を得る
技能実習生と現場従業員が互いに理解して、協力すれば、快適な職場環境を築けます。このためには、技能実習生だけでなく、受け入れる従業員側への配慮も大切です。
文化や言語の違いに起因する不安や戸惑いを解消するため、現場従業員向けの研修やセミナーの導入が効果的です。さらに、実習生の背景や文化についての情報共有を進め、社内全体で共通理解を深める取り組みが求められます。
また、現場でのコミュニケーションを円滑にするため、簡単なフレーズやジェスチャーを活用する工夫もおすすめです。このような相互理解の促進により、技能実習生が安心して働けるだけでなく、全体の生産性向上にもつながる職場環境を目指せます。
3.労働環境を整備する
技能実習生の労働時間や賃金については、法律を遵守して、公平に扱うことが基本です。また、製造業の現場では危険な作業が含まれる場合が多いため、安全対策を徹底しなければなりません。
たとえば、機械の操作に関する研修を実施して、実習生が理解できるまで丁寧に指導する必要があります。さらに、労働環境だけでなく、日々の業務中に発生する疑問や不安を解消するための相談体制を整えましょう。
これにより、技能実習生の満足度向上だけでなく、事故のリスクを減らして、企業の信頼性向上にもつながります。
技能実習生 問題でよくある3つの質問
最後に、技能実習生 問題でよくある質問について紹介します。
- 質問1.現行制度の問題点とは?
- 質問2.技能実習生を職場に定着させるには?
- 質問3.技能実習と特定技能の違いは?
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
質問1.現行制度の問題点とは?
現行制度の問題点としては、以下があげられます。
- 技能実習制度の目的の形骸化
本来の目的である「技能移転による国際貢献」が労働力確保の手段として利用されている。技能実習と特定技能が異なる制度として扱われているため手続きが煩雑になっている
- 賃金未払いや人権侵害
技能実習現場では、賃金未払いや不当な長時間労働、暴行や暴言による人権侵害などの問題が発生している。しかし、転職や転籍が原則認められないため、相談しにくい現状がある
- 送り出し機関への高額負担
実習生が手数料や保証料を送り出し機関に払うために多額の債務を負い、失踪や不法就労の原因となっている
- キャリアパスの不整備
技能実習と特定技能制度の対象分野が一致せず、一貫性のあるキャリアパスが描きにくい
質問2.技能実習生を職場に定着させるには?
技能実習生を職場に定着させるには、以下の方法があります。
- 日本人と同じ条件を提供する
技能実習生の定着には、公平な労働条件の整備と適切な教育環境の提供が必要。たとえば、賃金や労働時間、休日取得など基本的な労働条件を平等にすると、モチベーションが高まるため、職場への長期的な貢献が期待できる
- 教育制度を整備する
実習技能生が日本の職場文化や業務に適応するためには、正しい教育制度が必要。機械操作や安全管理など専門知識が求められる製造業では、十分な研修を提供して、スキルアップと職場への適応を促進する
- 動画マニュアルを活用する
技能実習生の教育には、紙マニュアルやOJTよりも直感的に理解できる動画マニュアルが効果的。多くの言語に対応する自動翻訳機能が付いているものを活用すれば、言語の視覚的な学習手段として技能実習生の教育を効率化できる
質問3.技能実習と特定技能の違いは?
技能実習と特定技能の違いは、以下のとおりです。
- 就労期間の違い
技能実習は最長5年間の滞在が可能だが、特定技能は1号で5年、2号で10年以上の滞在が認められている
- 転職の可否
技能実習では転職が認められない。一方、特定技能は転職が可能で、技能実習時とは異なる企業での就労もできる
- 基本理念の違い
技能実習は「技能移転による国際貢献」が目的とされ、需給調整の手段としての活用はできない。一方、特定技能は人手不足の解消を主な目的として設けられている
また、技能実習から特定技能への移行は可能ですが、制度の複雑化を招いています。
なお、特定技能と技能実習の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【2024年最新版】特定技能と技能実習の違いは10項目|それぞれに向く企業の特徴も徹底解説!
まとめ
本記事では、技能実習生に関する主な問題点やその原因、対策についてご紹介しました。
技能実習制度は、外国人技能実習生が日本の高度な技術やノウハウを学び、それを自国で活用して、地域の産業発展へ寄与するのが目的です。しかし、労働力を補う手段として利用されるケースが多く、制度本来の目的が見失われつつあるのが現状です。
また、技能実習生への給料や残業代の未払い、労働災害、長時間労働、損失、犯罪への関与など、さまざまな問題も指摘されています。これらの問題が発生する背景には、従業員との意思疎通の不足や来日前の説明不足、期待していた給与が支給されないなどの課題があげられます。
これらの問題を解決するためには、実習生が安心して働けるように、業務内容だけでなく生活全般に関するサポート体制の整備や従業員向けの研修やセミナーの導入が効果的です。さらに、法令を遵守して、日々の業務中に発生する疑問や不安を解消するための相談体制も整えましょう。
これにより、技能実習生の満足度向上だけでなく、事故のリスクが軽減され、企業の信頼向上にもつながります。
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