外国人の雇用を検討している企業担当者の方で、在留資格「定住者」について知りたいという方もおられるのではないでしょうか。企業が外国人を雇う場合、身分系の在留資格を持つ外国人を雇う可能性もあるため、正しい知識を身につけておく必要があります。
本記事では、在留資格「定住者」の概要や要件、雇用するメリットについて解説します。また、雇用する際の注意点やよくある質問についても解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
在留資格「定住者」とは?
在留資格「定住者」は、日本に定住している外国人を指し、人権や人道上の特別な理由がある場合に認められる身分系在留資格です。特定の国からの難民や日系の方などが該当するケースが多く、留学生や就労系の在留資格のような「就労制限」はありません。
しかし、ほかの在留資格と同じように一定の有効期間(5年、3年、1年、6ヶ月、その他法務大臣が指定する期間)が設定されています。
1.「永住者」との違い
「永住者」と「定住者」はどちらも就労活動における制限がなく、再入国許可の必要もありません。しかし、「永住者」は在留期間が無制限で、在留資格の更新も不要です。
一方、「定住者」は、定められた在留期間が過ぎると、必ず更新手続きが必要となり、身分や収入などの変更がある場合は更新ができない可能性があります。そのため、「定住者」は安定した身分ではあるものの、安定性は「永住者」に比べると半永久的なものではありません。
2.「告示定住者」と「告示外定住者」
「定住者」の身分には、「告示定住者」と「告示外定住者」という2つの類型が存在します。
- 告示定住者
国があらかじめ告示を出して正式に認めた定住者で、主に日系人が該当する
- 告示外定住者
告示に記載されておらず、特別な事情がある場合に限り、例外的に定住者としての身分が認められる。原則として、すでに日本に居住している人々が対象であり、新たに国外から日本に呼び寄せることはできない
3.在留期間
「定住者」の在留期間には、6ヶ月、1年、3年、5年の設定があります。また、法務大臣が個々のケースに応じて、5年を超えない範囲で特定の期間を指定する場合もあります。
さらに、「定住者」の外国人が1年以上の在留資格を有している場合は、配偶者も「定住者」として認められるのが一般的です。そのため、配偶者がいる場合は、1年以上の在留期間を確保するのが望ましいです。
「定住者」の要件
「定住者」の要件について解説します。
- 告示定住者
- 告示外定住者
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.告示定住者
まずは、告示定住者について解説します。
日系人の告示定住者
日系人とは、日本人の血を引く外国人を指します。特定の条件を満たした場合、彼らは日本で在留資格「定住者」の取得が可能です。
- 定住者告示3号
日本人の実孫である日系3世や、国籍を離脱した元日本人の実子、すなわち日系2世が含まれる
- 定住者告示4号、5号、6号
日系3世のうち、元日本人の実子の実子、その配偶者、および未成年で未婚の実子も定住者にそれぞれ該当する
たとえば、日本人男性Aと外国人女性Bの間に、生まれた日系2世の子Cがいるとします。この場合、Bは「日本人の配偶者等」の資格を、Cは「日系2世」としての資格取得が可能です。
また、Cが配偶者Dと結婚し、その間に生まれた日系3世の子Eも「定住者」の資格を有します。さらに、Eの配偶者Fとの間に生まれた未成年で未婚の日系4世Gも、定住者資格に該当します。
その他の告示定住者
その他の告示定住者としては、以下の条件が該当します。
- 定住者告示1号
第3国での定住が困難な難民
- 定住者告示7号
日本人、永住者、または定住者の6歳未満の養子
- 定住者告示8号
戦後中国に残った日本人およびその家族
その他の告示定住者については、さまざまな背景を持つ人々が日本社会に溶け込み、支援を受けるためにあるものです。
2.告示外定住者
次に、告示外定住者について解説します。
難民認定者
日本で難民として認定されると、在留資格「定住者」を取得できます。このプロセスは非常に厳格であり、認定率は0.1%と非常に低いです。そのため、多くの申請者は難民としての資格を得る前に長い待ち時間を要します。
また、難民申請中の外国人は、「特定活動」の在留資格を持ち、「定住者」ではありません。難民申請が不許可となれば、これらの人々は日本を離れなければならない可能性があります。
離婚・死別定住
離婚や死別により配偶者との関係が解消された場合、本来は日本での滞在資格も影響を受けるのが一般的です。この状況にある人々は「告示外定住者」とされるケースが多く、特定の条件下では日本に居続けることも可能です。
- 日本で3年以上の夫婦生活を経験している
- 安定した収入や財産を持っている
- 適切な日本語能力を有している
- 納税などの公的な義務を遵守している
さらに、夫婦生活が3年に満たない場合でも、例外が認められるケースがあります。たとえば、日本人の配偶者との間に生まれた子どもを親権者として育ている場合や、事実上の夫婦関係が破綻し、家庭内暴力(DV)の被害を受けている場合などです。
義務教育を受けて高校を卒業した家族滞在者
「家族滞在」や「公用」で来日し、少なくとも小学校3年から高校卒業までの約10年間、日本の教育を受けていた子どもたちが対象です。対象の子弟が高校卒業後に就職を希望する場合、自分の在留資格を「定住者」に変更する申請が認められています。
この規定により、長期間に渡って日本の教育を学んだ子どもたちが、日本社会での職業生活をスタートさせるためのより安定した基盤を得られるようになりました。
在留資格「定住者」の人材を雇用するメリットは3つ
次は、在留資格「定住者」の人材を雇用するメリットについて解説します。
- 職種に制限がない
- 新たな顧客層や人脈の開拓が期待できる
- 日本語能力が高い
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.職種に制限がない
定住者は在留資格の制限を受けず、日本人労働者と同じように柔軟な業務が可能です。一方で、就労系の在留資格を持つ労働者は、職種に応じて異なる在留資格を取得しなければならず、学歴や職歴、資格などの面においても制限が設けられています。
また、雇用形態についても制約が多く、正社員でなければ認められないケースもあります。しかし、定住者には制限が適用されないため、業務の幅を広げるチャンスが多く、さまざま業務を依頼することが可能です。
2.新たな顧客層や人脈の開拓が期待できる
定住者の両親や親類が母国で暮らした経験を持つため、母国語に堪能な場合が多く、ビジネスチャンスにつながる可能性があるかもしれません。
母国をターゲットにしたビジネス展開を考える際、異なる文化の理解やコミュニケーションの注意点について定住者からのアドバイスが得られます。また、自社のほかの従業員にグローバルな視点をもたらす効果も期待できます。
3.日本語能力が高い
定住者を採用するメリットの1つは、その高い日本語能力です。定住者は日本での生活経験が豊富であるため、日本語を流暢に使いこなす能力を持っています。
この高い日本語能力は、ビジネスコミュニケーションにおいて非常に有益です。たとえば、クライアントとの商談やチーム内のコミュニケーションが円滑に進めば、言語の違いによる誤解やミスを減らせます。
また、社内外の文書作成や日本語のマーケティング資料の作成にも強みを発揮します。これにより、企業は円滑な業務運営を実現し、信頼性を高めることが可能です。
なお、外国人労働者のメリットについて、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:外国人労働者を受け入れる5つのメリット|受け入れに関する現状や問題点、注意点まで詳しく解説します!
在留資格「定住者」の人材を雇用する際の注意点は3つ
次は、在留資格「定住者」の人材を雇用する際の注意点について解説します。
- 在留資格の更新が必要
- 属人化しやすい
- 出国するリスクがある
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.在留資格の更新が必要
更新時には、収入・財産状況の変化、犯罪・違法行為の有無、納税状況など、さまざまな条件を満たす必要があります。万が一、雇用している外国人労働者が更新不許可となった場合、定住者として働けなくなる可能性があります。
定住者に限らず、外国人を雇用する際は、できるだけプライベートにも気を配り、必要に応じてサポートができるように努めましょう。また、定住者が各種手続きを行う際には身元保証書が求められるケースが多く、企業担当者などが身元保証人になる可能性も少なくありません。
2.属人化しやすい
在留資格を失い職場や日本を離れるリスクがあるため、定住者だけに重要な職務を任せるのは、リスクがあります。培ってきたノウハウの喪失を取り戻すには時間がかかり、場合によっては事業や業務に大きな悪影響を与えかねません。
外国人を雇用するにしても、外国人を含めた複数人のスタッフに仕事を任せるようにし、技術等の流出を防ぐ必要があります。
3.出国するリスクがある
定住者は身分系の在留資格を持つため、離婚や死別などプライベートな理由から身分を失うリスクがあります。外国人を雇用する企業にとっては深刻な問題であるため、状況を把握できる環境を整えるようにしてください。
外国人材が在留資格を失った場合に備えて、以下を検討する必要があります。
- 「告示外定住者」に該当するか確認する
- 就労系の在留資格に移行できるか、ほかの在留資格に該当する可能性を検討する
身分を失うと、日本からの出国が必要な場合もあるため、外国人材の身分保証や在留資格の取得に対応できる準備が不可欠です。必要に応じて、専門機関や経験豊富な法律家との連携を密にしておくのがおすすめです。
定住者とはでよくある3つの質問
次は、定住者とはでよくある質問について紹介します。
- 質問1.「定住者」の在留資格更新は必要?
- 質問2.定住者から永住者になるには?
- 質問3.定住者の申請手続きの流れは?
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
質問1.「定住者」の在留資格更新は必要?
定住者は、在留期限が近づくと、更新手続きが必要です。更新の際、以下のポイントを確認しましょう。
- 定住者の身分が変わっていないか
- 収入や財産状況に変化がないか
- 犯罪や違法行為がないか
- 納税や法律で定められた手続きを遵守しているか
これらの条件を満たしていない場合、更新が不許可になる可能性があります。また、更新手続きでは身元保証書が求められる場合が多く、雇用会社の関係者に身元保証人としての依頼を行う場合があります。
質問2.定住者から永住者になるには?
定住者から永住者への移行条件は、以下のとおりです。
- 素行が善良である
素行善良とは、法律違反や犯罪による処罰を受けていない状態。具体的には、懲役や禁錮、罰金などの刑罰を受けおらず、日常生活での違法行為や迷惑行為がないことも含まれる
- 独立生計が立てられ
安定した生活が送れる収入を持っている必要がある。年収が250万円~300万円以上であり、生活保護を必要としない状況にある
- 日本の国益に適合する
日本の国益に適合するには、以下の要件を満たさなければならない。
・日本に5年以上連続して在留している
・納税義務の履行、健康保険や国民年金への加入、法律の遵守
・公衆衛生を害するおそれがない
なお、永住権を取得するための要件については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
関連記事:外国人が日本の永住権を取得するための要件は3つ|許可申請の方法や取得後の注意点を解説!
質問3.定住者の申請手続きの流れは?
定住者の申請手続きの流れは、以下のとおりです。
- 相談を行う
申請者は、出入国在留管理局で在留資格の相談を行う。担当者は申請者の在留状況を確認し、必要な書類について説明する
- 書類の作成と収集
申請に必要な書類を作成・収集する。この際、内容の正確性や整合性に注意し、有効期間内に書類を用意しなければならない
- 書類の提出
必要な書類を出入国在留管理局に提出するか、在留申請オンラインシステムを利用して申請する
- 審査の実施
出入国在留管理局が書類を基に審査を行い、追加書類の提出を求める場合がある
- 審査結果の通知
審査が許可された場合、申請者は在留資格認定証明書や在留カードを受け取る。オンライン申請の場合は、電子メールでの通知または郵送で受け取る
- 不許可の場合の対応
申請が不許可となった場合、出入国在留管理局で不許可の理由を説明する。不服申立てはできないが、次回の申請に備えて改善点を把握し、書類の控えを保持することが推奨される
まとめ
本記事では、在留資格「定住者」の概要や要件、雇用するメリットや注意点についても解説しました。
在留資格「定住者」は、日本に定住している外国人を指すもので、人権や人道上の理由により、在留を認められている身分系在留資格です。難民や日系の方がこれに該当し、留学生や就労系の在留資格のような「就労制限」はありません。
そのため、雇用する企業にとっては、職種への制限がない点が最大のメリットです。ただし、離婚や死別などにより、更新ができなくなる可能性があります。
在留資格「定住者」を雇用する場合は、業務の属人化に注意し、できるだけプライベートにも気を配りながら、必要に応じてサポートができるように努めましょう。