労働力不足の解消のため、日本では外国人労働者の受け入れが増加しています。しかし、現場ではさまざまな労働者問題が発生しているため、外国人労働者の受け入れを検討する際は、これらの問題について正しい理解と認識が必要です。
本記事では、外国人労働者の就業状況や主な労働者問題とその原因、解決策について解説します。また、外国人労働者を受け入れるメリットや注意点についても解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
外国人労働者の就業状況
引用:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (令和5年 10 月末時点)
令和5年の厚生労働省の発表によれば、外国人労働者は2,048,675人に達し、前年から225,950人増加しています。この数値は平成19年の届出の義務化以降、最も高い数値です。
とくに、ベトナム出身の労働者が最も多く、全体の25.3%を占めています。また、中国やフィリピン出身者も多く、3か国で全体の5割以上を占めています。
さらに、外国人労働者を雇用する事業所の数も増加しており、現在は318,775所が外国人を雇用している状況です。
参考:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)|厚生労働省
外国人労働者における主な労働者問題は5つ
次に、外国人労働者における主な労働者問題について解説します。
- 就労制限
- 劣悪な労働環境
- コミュニケーション不足
- 地域社会との溝
- 低賃金・賃金未払い
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1.就労制限
出入国管理および難民認定法に基づき、在留資格によって就労の可否が決定されており、全27種類の在留資格のうち、就労活動に制限がないのは「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」の4種類です。
ほかの在留資格を持つ外国人は、許可された範囲内でしか働けないため、厳しい制約に直面しています。また、不法就労には深刻なペナルティがあり、違反者は強制退去の対象となる場合があります。
2.劣悪な労働環境
外国人労働者は厳しい労働環境におかれており、その原因は多岐にわたります。たとえば、事業者のなかには、労働基準法の理解が不十分である事業者も存在します。
さらに、技能実習の本来の目的を誤解し、低賃金で困難な仕事を外国人に押し付けるケースも少なくありません。事業者は、国籍に関係なく労働者の権利を尊重し、良好な労働環境を提供する責任があります。
3.コミュニケーション不足
多くの場合、日本語能力の不足や日本の文化への理解不足がその根本的な原因です。企業側も、外国人労働者に対する支援が不十分であり、コミュニケーションを促進するための取り組みが足りていないケースも少なくありません。
この問題に対処するためには、職場での信頼関係の構築が不可欠です。互いの文化や言語への理解を深め、労働者一人ひとりが安心して意見を交わせる環境を作る必要があります。
4.地域社会との溝
多くの地域で外国人の数が増加しているにもかかわらず、一部の地域では、外国人に対する不信感や差別的な態度が見られる場合があります。
NHKが2020年に実施した調査によると、日本全体で外国人受け入れには肯定的な意見が多いものの、自分の住む地域での外国人増加には懸念を示す声があります。とくに、外国人の増加が治安悪化につながると感じている人が31%もいる結果になりました。
引用:日本で働く外国人増加「賛成」が70% NHK世論調査2020年6月7日
このような状況は、外国人労働者を雇用する企業にも悪影響をおよぼし、地域社会との関係悪化が企業イメージに悪影響を与える可能性があります。
5.低賃金・賃金未払い
外国人労働者の一部が最低賃金以下で働かされたり、賃金未払いの被害にあったりするケースも存在します。しかし、最低賃金は都道府県ごとに定められており、日本人だけでなくすべての外国人労働者にも適用されなければなりません。
このような不公平は、外国人労働者の生活に影響をおよぼし、結果として離職や失踪を促す要因の1つです。労働環境の公正と平等を守るために、日本の企業や社会全体での意識改革が求められています。
なお、外国人労働者の賃金については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:外国人労働者の平均賃金とは?在留資格ごとに賃金の差が生じている理由や基本的なルールを徹底解説!
外国人労働者問題が起こる3つの原因
次に、外国人労働者問題が起こる原因について解説します。
- 安価な労働力という考え方が根付いている
- 外国人への差別意識がある
- 日本語能力や文化の理解が不十分である
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1.安価な労働力という考え方が根付いている
日本の一部の企業では、外国人労働者を日本人と同等の条件で雇用しないケースがあります。法的な改正が進んでいるものの、言語の壁を理由に同等の給与を支払うことに消極的な企業も存在します。
この問題の根本解決には、社会全体の意識改革が必要です。一方で、外国人労働者を公正に扱う企業も多く存在しているため、優秀な人材を引きつけるには適切な受け入れ体制の整備が不可欠です。
2.外国人への差別意識がある
日本は比較的差別が少ない国と思われていますが、内閣府の調査によると、外国人が直面する人権問題として「風習や習慣の違いへの非受容」と「就職や職場での不利な扱い」が挙げられています。
これらのデータから、外国人労働者が日常的に直面している課題が浮かび上がっています。日本で働く外国人の3人に1人が職場で差別を感じているという現実は、私たち日本人が見過ごしてはならない問題です。
3.日本語能力や文化の理解が不十分である
これらは、外国人労働者が日本で円滑に働くために克服すべき課題ですが、それだけが問題ではありません。企業側の適切なサポートの欠如や従業員の対応にも原因があります。
企業側が「日本で働く以上は日本人と同じように振る舞うべき」と一方的に考える場合、コミュニケーションのギャップは解消されず、信頼関係の構築も困難です。
外国人労働者が日本語と文化を学ぶ一方で、企業も異文化理解や適切なサポートを提供し、相互理解を深める努力が求められます。
外国人労働者問題の解決策は7つ
次に、外国人労働者問題の解決策について解説します。
- 外国人労働者の待遇を差別しない
- 外国人労働者に関する法律やルールを理解する
- 外国人労働者の受け入れ体制を整備する
- 求人票や雇用契約を明確に提示する
- 日本人向けの研修や交流会を開催する
- 明確なキャリアプランを設定する
- 専任の教育担当者を設ける
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1.外国人労働者の待遇を差別しない
給与や残業代の公正な支払い、最低賃金の厳守はもちろんですが、それだけでは不十分です。日本人労働者と同等の賃金水準を保証することも求められます。
「同一労働同一賃金」の原則は2020年4月から施行されており、外国人労働者もこの原則の適用対象です。この原則は、正規雇用と非正規雇用の間の待遇差をなくすことを目的としており、外国人労働者の差別を解消するためにも重要な原則です。
2.外国人労働者に関する法律やルールを理解する
外国人労働者の安全衛生教育を実施する際は、母国語での教育が必要です。また、外国人労働者が在留資格で許されている範囲内で働いているかどうか、事前に確認する責任があります。
これらの規定を疎かにすると、企業は法的責任を問われる場合があり、不法就労助長罪に問われるリスクもあります。法律やルールに不慣れな場合は、専門機関に相談し、適切な知識を身につけるようにしましょう。
3.外国人労働者の受け入れ体制を整備する
外国人労働者の受け入れ体制構築に必要な整備については、以下のとおりです。
- 現場の従業員に対し外国人労働者の受け入れについて理解を深めるよう努める
- 外国人労働者のキャリアアッププランを明確にし、目指すべき将来像を示す
- 専任の教育担当者を配置し、母国語でのサポート体制を確立する
通訳の配置が難しい場合でも、就業規則やマニュアルを外国人労働者の言語で提供しましょう。こうした取り組みにより、外国人労働者の文化や慣習を尊重しつつ働きやすい環境を整備できます。
4.求人票や雇用契約を明確に提示する
正確な情報提供がない場合、入社後に「聞いていた条件と違う」と感じてしまい、これが転職や退職の理由になり得ます。したがって、求人票や雇用契約書は、労働条件や給与、勤務時間など、必要な情報を詳細に明記するようにしましょう。
これは、外国人労働者の権利と義務を正確に理解する一助となり、将来的な誤解やトラブルを防ぐためにも不可欠です。
5.日本人向けの研修や交流会を開催する
対人関係における課題は、労働者間の差別意識に起因する場合が少なくありません。これを解消するためには、受け入れ企業は日本人社員の意識改革に注力すべきです。
研修を通じて、社員は異なる文化の理解を深め、外国人労働者との効果的なコミュニケーション方法を学びます。交流会は、よりカジュアルな環境のなかで双方が互いについて学び、理解を深める絶好の機会です。
6.明確なキャリアプランを設定する
明確なゴールと評価基準を設定すると、すべての社員が自分の努力が正当に評価されているという安心感を得られます。とくに、外国人労働者が「外国人だから評価されない」という誤解をしないためにも、明確な評価基準が欠かせません。
企業の目標に対して自身の役割を理解し、成果を上げた際にどのようなキャリアアップが待っているのか理解することで、モチベーションの向上につながります。
7.専任の教育担当者を設ける
教育担当者は異なる文化を理解し、いつも忍耐強く、穏やかに指導できる人物であるべきです。また、業務の指導に留まらず、外国人労働者が気軽に相談でき、信頼できる存在でなければなりません。
このような担当者がいれば、外国人労働者も安心して働くことができ、文化的な違いや言語の問題によるストレスを軽減できます。また、教育の一貫性により、指導方法のばらつきによる混乱を避けられます。
外国人労働者を受け入れる3つのメリット
次に、外国人労働者を受け入れるメリットについて解説します。
- 人手不足の解消
- 優秀な人材の獲得
- 組織の活性化
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1.人手不足の解消
日本の多くの産業分野で人手不足が深刻化しており、とくにコロナ禍以前から顕著な問題となっています。人手不足が原因で倒産する企業も増加しており、この傾向は今後も続くと予測されています。
この問題に対処するために、外国人労働者の積極的な採用が効果的な手段の1つです。外国人労働者の採用により、即戦力となり得る人材が確保できれば、業務の効率化が図れます。
2.優秀な人材の獲得
日本では高齢化が進み、中小企業においては、優秀な若手人材の獲得が困難な状況です。そのため、外国人労働者の採用は、企業にとって優秀な人材を獲得できるチャンスです。
外国人労働者は、異なる文化や環境からの新しい視点を提供し、その多様性は企業の革新を促進します。多くの場合、海外で働くことを選んだ外国人は高い意欲とハングリー精神を持ち合わせており、これらは企業の成長に不可欠な要素です。
3.組織の活性化
外国人労働者をはじめとする多様な人材の受け入れは、ダイバーシティ実現に向けた取り組みの1つです。多様な文化的背景を持つ人材が加わることで、新たな視点やアイデアが生まれ、企業内の創造性が刺激されます。
また、外国人労働者の導入は、グローバルな視野を持つ企業文化の醸成に役立ち、海外市場への進出やインバウンド戦略の強化にもつながります。
外国人労働者を受け入れる際の3つの注意点
次に、外国人労働者を受け入れる際の注意点について解説します。
- 働きやすい環境を整備する
- 在留資格を確認する
- 日本語のレベルをチェックする
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1.働きやすい環境を整備する
外国人労働者にとって言語の壁は大きな挑戦であり、日本語のみの職場では十分に力を発揮するのが難しいかもしれません。そのため、指示や掲示物に複数言語を使用したり、日本の職場文化への理解を深めるための研修を提供したりするのが効果的です。
また、住居や生活面での支援も忘れてはなりません。外国人労働者が日本での生活に早く慣れ、安心して働けるよう、サポート体制を整える必要があります。
2.在留資格を確認する
在留資格には、就労が許可される職種が明確に規定されており、これを遵守しないと、企業と労働者の双方に法的なリスクが生じます。在留カードを確認し、労働者の資格が企業の業務内容と適合しているか確認が不可欠です。
たとえば、「技術・人文学・国際業務」の資格を持つ人は、その範囲内の職種でのみ働くことが可能です。また、在留資格だけではなく、期限も重要で、期限切れの労働者を雇用することは違法となります。
3.日本語のレベルをチェックする
多くの業務で求められるのは、少なくとも日本語能力試験N2レベルの能力ですが、すべての労働者がこの基準を満たしているわけではありません。
採用後、労働者の言語スキルを正確に把握するために、簡易的な日本語テストを実施するのが効果的です。この結果を基に、個々のニーズに合わせた日本語の教育プランを立てましょう。
たとえば、外国人労働者が日本語学校に通う支援を実施したり、職場内で日本語の勉強会を設けたりすることで、コミュニケーション能力の向上を図れます。
外国人労働者問題でよくある3つの質問
最後に、外国人労働者問題でよくある質問について解説します。
- 質問1.外国人労働者を受け入れるデメリットは?
- 質問2.「特定技能」と「技能実習」の違いは?
- 質問3.外国人を採用する場合のフローは?
それぞれについて詳しくみていきましょう。
質問1.外国人労働者を受け入れるデメリットは?
外国人労働者を受け入れる際は、いくつかのデメリットを考慮する必要があります。主なデメリットは以下のとおりです。
- 文化や習慣の違い
文化的な差異により、意図せぬ誤解やトラブルが生じる可能性がある。善悪の基準や価値観が異なるため、互いに不快感を覚える場合がある
- コミュニケーションの難しさ
言語の壁やコミュニケーションスタイルの違いにより、意思疎通が難しい場合がある。日本人特有の非言語コミュニケーションや暗黙の了解が伝わりにくい
- 特有の手続きやルール
外国人労働者を雇用する際は、在留資格や適切な職種の確認など、追加の手続きが必要。雇用に関する特別な知識や準備が必要になる
- 採用プロセスの時間がかかる
海外からの労働者採用にはビザの発行や在留資格の手続きが必要で、時間がかかる。在留資格の変更が必要な場合、その間労働者は働けないことがある
質問2.「特定技能」と「技能実習」の違いは?
特定技能と技能実習は混同されやすいですが、この2つには以下のような違いがあります。
技能実習 | 特定技能 | |
目的 | 技能移転による国際貢献 | 労働力の確保 |
人数制限 | あり | なし(建設・介護を除く) |
在留期間 | 5~10年 | 1号:5年 2号:10年 |
転職 | 転職という概念はない。場合によって「転籍」が可能 | 同一職種であれば転職が可能 |
家族滞在 | 不可 | 2号のみ可 |
関与主体 | ・外国人本人(技能実習生)・送り出し機関・受け入れ先機関(企業)・監理団体・技能実習機構 | ・外国人本人・企業※登録支援機関への委託は必須ではない |
支援実施団体 | 監理団体 | 登録支援機関 |
なお、特定技能と技能実習の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【2024年最新版】特定技能と技能実習の違いは10項目|それぞれに向く企業の特徴も徹底解説! – 株式会社 グローバルヒューマニー・テック
質問3.外国人を採用する場合のフローは?
外国人を採用する際のプロセスは、以下のステップに沿って進められます
- 求人募集
職種や勤務条件、求めるスキルや言語能力を明確にした求人を出す
- 選考
書類選考や面接を通じて、応募者の資質やスキル、適合性を評価する
- 内定
選考を経て、採用を決定した候補者に内定を通知する
- 労働契約の締結
労働条件、職務内容、報酬などを明記した契約を締結する
- 在留資格(就労ビザ)申請・変更
外国人労働者の在留資格の確認および必要に応じた就労ビザの申請や変更を実施する
- 入社の準備
住居の手配、事前のガイダンスや研修の実施、必要に応じて渡航のサポートを実施する
- 雇用開始
上記の手続きが完了した後、外国人労働者は正式に業務を開始
まとめ
本記事では、外国人労働者の就業状況や労働者問題とその原因、解決策、外国人労働者を受け入れるメリットや注意点について解説しました。
外国人労働者における主な労働者問題としては、劣悪な労働環境や社会地域との摩擦、低賃金・賃金未払いなどの問題があります。これらは、外国人労働者に対する認識の相違によって引き起こされる問題です。
これらを解決するためには、外国人労働者の待遇改善、正しい法律やルールの理解、受け入れ体制の整備などが欠かせません。また、外国人労働者を雇用する際は、日本語のレベルや在留資格の有無にも注意が必要です。
株式会社グローバルヒューマニー・テックでは、グローバル人材に対する総合的な生活支援を実施しており、特定技能外国人の受入れにおける豊富な経験と知識を有しています。ご相談・お見積りはもちろん無料です。まずはお気軽にお問合せください。⇒株式会社グローバルヒューマニー・テックに相談する