
外国人従業員が退職・帰国する際に、「脱退一時金」について質問され、対応に困っていませんか。「脱退一時金についてわかりやすく説明したい」「会社として何をサポートすべきか知りたい」とお考えの企業担当者も多いはずです。
脱退一時金とは、日本の年金保険料を6ヶ月以上納めた外国人従業員が、帰国時に払い戻しを請求できる重要なお金です。
従業員本人による申請が基本ですが、企業側も手続きの流れを理解しておくことが、円満な退職とトラブル防止につながります。
申請の主な流れは以下の3ステップです。
- ステップ①必要書類を準備する
- ステップ②日本年金機構へ請求書を送付する
- ステップ③脱退一時金を受け取る(税金の還付手続き)
この記事では、外国人従業員に制度を説明するために企業担当者が知っておくべき、脱退一時金の基本ポイントと申請方法を解説します。


脱退一時金の3つのポイント
脱退一時金は、日本で働いた外国人全員が自動的にもらえるものではありません。
請求する前に知っておくべき、3つの重要なポイントを解説します。
ポイント①受給資格(国籍・加入期間など)
最も基本的な条件として、請求者本人の状況が問われます。
まず、日本国籍を持っていないことが大前提です。その上で、国民年金または厚生年金保険の保険料を納めた期間(※免除期間なども含む)が、合計して「6ヶ月以上」あることが必須となります。
これは、短期間の就労や留学では対象とならないことを意味します。
さらに、日本国内に住所がないことも要件です。具体的には、市区町村の役所で住民票の転出届を提出し、日本を出国している必要があります。日本に住みながら受け取ることはできません。
ポイント②支給額
支給される金額は、加入していた年金制度や期間によって大きく異なります。
国民年金(National Pension)に加入していた場合は、保険料を納めた月数に応じて、あらかじめ定められた金額が支払われます。
納付月数の区分(6ヶ月以上~60ヶ月未満)によって、支給額が変わる仕組みです。
一方で、厚生年金保険(Employees’ Pension Insurance)に加入していた場合は、計算が少し複雑になります。加入していた期間の平均給与(平均標準報酬額)に、保険料率や加入期間に応じた係数を掛けて算出されます。
基本的に、給与が高く、加入期間が長いほど支給額は多くなります。
ポイント③申請時の注意点
脱退一時金を請求する上で、最も注意すべき点が2つあります。それは「申請期限」と「年金期間のリセット」というデメリットです。
まず、申請期限は「日本を出国した日(住民票の転出届に記載した転出予定日)から2年以内」と厳密に定められています。2年を1日でも過ぎると時効となり、請求する権利そのものが失われてしまいます。
もう一つの重要な注意点は、脱退一時金を受け取ると、その計算の基礎となった期間(例:5年間保険料を納めた場合)は、年金の加入期間としてカウントされなくなることです。
つまり、将来日本に戻って再び働く場合や、社会保障協定で期間を通算する場合に、不利になる可能性があります。

脱退一時金を受け取るための3つのステップ
脱退一時金を受け取るための手続きは、原則として日本を出国した後に行います。必要な準備と流れを3つのステップで解説します。
ステップ①必要書類を準備する
申請には、まず「脱退一時金請求書(Claim Form for the Lump-sum Withdrawal Payments)」が必要です。
この書類は日本年金機構のウェブサイトから多言語でダウンロードできます。
◆脱退一時金請求書(ベトナム語の例)

引用:脱退一時金請求書
請求書以外に、パスポートのコピー(最後に日本を出国した年月日、氏名、国籍、署名が確認できるページ)と、年金手帳または基礎年金番号通知書が必要です。
また、一時金を受け取るための銀行口座情報(銀行名、支店名、口座番号、本人名義であること)がわかる書類も準備してください。
日本の銀行口座は解約している場合が多いため、海外の銀行口座を指定するのが一般的です。
ステップ②日本年金機構へ請求書を送付する
すべての書類がそろったら、日本の年金事務所または日本年金機構(海外在住者向けの担当部署)へ国際郵便などで送付します。
前述の通り、この請求は日本を出国してから2年以内に行わなければなりません。
書類に不備があると、日本との間で何度もやり取りが発生し、時間がかかってしまうため、送付前に記入漏れや添付書類の不足がないか、入念に確認してください。
ステップ③脱退一時金を受け取る(税金の還付手続き)
書類が受理され、審査に通ると、請求から約3〜6ヶ月後に指定した銀行口座へ脱退一時金が振り込まれます。
その際、「脱退一時金支給決定通知書」という書類が郵送されてきます。
ここで重要なのが、振り込まれた金額は、本来の支給額から約20%の所得税(復興特別所得税を含む20.42%)が引かれた(源泉徴収された)後の金額であることです。
この引かれた税金は、後述する「還付申告」という手続きをすることで、取り戻せる可能性があります。この「支給決定通知書」は還付申告の際に必要となるため、絶対に失くさないように保管してください。

脱退一時金の申請で損をしないための3つの重要な知識
脱退一時金の手続きは、単に請求すれば終わりではありません。知らなければ数万円単位で損をしてしまう可能性のある、3つの重要な知識を解説します。
知識①社会保障協定(二重加入防止と期間通算)の確認
日本は、アメリカ、ドイツ、韓国、フィリピン、ブラジルなど多くの国と「社会保障協定」を結んでいます。この協定の目的の一つに、両国の年金加入期間を通算できる仕組みがあります。
たとえば、日本で7年、母国で3年働き、その国が協定相手国だった場合、合計10年として将来母国で年金を受け取れる可能性があるわけです。
しかし、日本で脱退一時金を受け取ると、日本の7年間の加入期間はリセットされてしまいます。
一時金として今お金を受け取るか、将来の年金のために期間を残しておくか、どちらが得になるかは慎重に判断する必要があります。協定相手国の場合は、まず自国の大使館や年金機関に確認するようにしましょう。
知識②約20%の所得税と還付申告の手続き
脱退一時金は税法上「退職所得」として扱われるため、支給時に20.42%の所得税が天引きされます。
この税金は、日本を出国する前に税務署へ「納税管理人の届出書」を提出し、日本国内に住む代理人(納税管理人)を立てておくことで、後から「還付申告」という手続きを通じて取り戻せる可能性があります。
納税管理人(親族や知人、税理士など)は、本人に代わって税務署で手続きを行います。この手続きをしなければ、引かれた税金(例えば50万円の一時金なら約10万円)は戻ってこないため、帰国前に必ず納税管理人の選定と届出を済ませておくことが重要です。
なお、外国人労働者の税金についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:外国人労働者の税金はこれで完璧!3つの注意点と居住者・非居住者の違いをご紹介! – 株式会社 グローバルヒューマニー・テック
知識③日本を出国してから2年以内の申請期限
何度も強調しますが、申請期限は「日本を出国した日(住民票の転出日)から2年以内」です。
帰国後の生活が忙しく、「そのうちやろう」と思っているうちに2年が経過し、数十万円を受け取る権利を失ってしまったケースは少なくありません。
権利の時効は非常に厳格です。帰国前に書類の準備を完璧に整え、日本を出国したらすぐに請求書を送付するくらいのスケジュール感を意識しておくことが、損をしないためのポイントです。

外国人採用の支援なら「グローバルヒューマニー・テック」にお任せください

「株式会社グローバルヒューマニー・テック」では、グローバル人材に対する総合的な生活支援を実施しています。
豊富な実績による盤石なサポート体制とIT技術をかけ合わせた独自のノウハウで、外国人労働者の支援プラットフォームを充実させています。
外国人材の安心安全な採用支援はもちろん、就業支援や生活支援を通じて人手不足をグローバルソリューションで解決するのが私たちの使命です。⇒株式会社グローバルヒューマニー・テックに相談する

脱退一時金でよくある3つの質問
最後に、脱退一時金に関連する疑問点をQ&A形式で解説します。それぞれの内容について詳しくみていきましょう。
質問①厚生年金と国民年金、両方に加入していましたが対象ですか?
両方の制度でそれぞれ「6ヶ月以上」の加入期間があれば、両方とも脱退一時金の対象となる可能性があります。重要なのは、加入期間は合算されないという点です。
国民年金と厚生年金保険は異なる制度であるため、受給資格は別々に判断されます。
たとえば、国民年金に4ヶ月、厚生年金に7ヶ月加入していた場合、厚生年金(7ヶ月分)のみが支給対象です。国民年金は6ヶ月に満たないため対象外となります。もし国民年金に10ヶ月、厚生年金に8ヶ月加入していた場合は、両方の制度からそれぞれ計算された一時金が支給されます。
質問②申請は代理人でもできますか?
日本年金機構への「脱退一時金の請求」そのものは、原則として本人(または海外在住の代理人)が行う必要があります。
年金記録は極めて重要な個人情報であり、本人確認が厳格なためです。
ただし、日本を出国する前に「納税管理人」を選任し、税務署に届出をしておけば、支給額から天引きされた所得税の「還付申告」を代理で行ってもらうことができます。
本人が日本非居住者になると税務署での手続きができないため、税金の払い戻し(還付)を受けるためには、この納税管理人による代理手続きが実質的に必須となります。
質問③もし日本に戻ってきたら年金はどうなりますか?
脱退一時金を受け取ると、その計算の基礎となった期間の年金加入履歴はすべてリセット(ゼロ)になります。
これは、一時金が保険料の「清算」を意味するためです。
もし将来、再び日本で長期間働くことになった場合、将来の老齢年金を受け取るためには、そこから新たに原則10年(120ヶ月)の加入期間が必要になります。
一時金を受け取った過去の期間は合算できません。また、このリセットは老齢年金だけでなく、万が一の際の障害年金や遺族年金の受給資格にも影響する可能性があるため、特に社会保障協定を結んでいる国の出身者は慎重な判断が求められます。

要件と期限を確認して脱退一時金を確実に申請しよう!
この記事では、脱退一時金をもらうための3つの重要ポイント、具体的な申請3ステップ、そして税金や社会保障協定で損をしないための知識を解説しました。
脱退一時金は、日本で真面目に保険料を納めてきた外国人のための正当な権利です。
権利を失わないために、以下の申請ステップを再確認してください。
- ステップ①必要書類を準備する
- ステップ②日本年金機構へ請求書を送付する
- ステップ③脱退一時金を受け取る(税金の還付手続き)
とくに重要なのは「出国から2年以内」という申請期限と、約20%の税金を取り戻すための「納税管理人の届出」です。
この届出は日本を出国する前に税務署で行う必要があります。
帰国前の忙しい時期ですが、準備を怠ると数十万円を損してしまう可能性もあるため、計画的に進めましょう。
なお、株式会社グローバルヒューマニー・テックでは、グローバル人材に対する総合的な生活支援を実施しており、外国人の受け入れにおける豊富な経験と知識を有しています。ご相談・お見積りはもちろん無料です。まずはお気軽にお問合せください。⇒株式会社グローバルヒューマニー・テックに相談する



